2013年4月25日 西日本旅客鉄道株式会社福知山線塚口駅〜 尼崎駅間列車脱線事故から8年を経過して

 乗客106人と運転士1人の107人が死亡し、562人が負傷した福知山線の列車脱線事故から本日2013年4月25日で丸8年を迎えた。痛ましい事故によって犠牲になられた方々には謹んで哀悼の意を表し、負傷された方々や犠牲者のご遺族と関係者の方々にはお見舞いを申し上げます。

 この事故から5年が過ぎたころであったであろうか。鉄道業界では事故に対する風化が急速に進み、いまや多くの人々の脳裏から忘れ去れようとしている。それどころか、鉄道とは21世紀の日本にあって一度の事故で100人以上の命を奪った唯一の交通機関という重い事実をなかったことにする鉄道メディア業界の現状には、怒りを通り越して哀れにさえ思う。
 事故直後にマスメディアで事故についての解説を行っていた筆者は、「普段は鉄道会社に寄生して『人殺し』の片棒をかついでいるくせに」と批判を受けた。その筆者がいまだにこの事故について課題を述べれば、大昔の出来事を大げさに話すと疎ましがられる。恐らくあと5年もすれば、この事故の話を持ち出すだけで、ありもしない話をあたかも本当のことのように語る嘘つきとして扱われるはずだ。
 筆者が他人にどう思われるかなどどうでもよい。問題はあの悲惨な事故が起きてなお、JR西日本の安全に対する思想は他の鉄道事業者と比べて遅れたままであるという点だ。
 JR西日本のホームページには「データで見るJR西日本2012」というebookなる電子書籍形式の会社要覧が用意されている。同書の30、31ページを開くとATS-P形についての説明と、導入路線が図示されていることに気づく。誠に恐縮ながら、ATS-P形について詳しくは述べない。簡潔に言うと、もしも事故当時福知山線に導入されていれば、あのような悲劇は起きなかったかあるいは軽減されていたと見なされている保安装置を指す。
 31ページの図を見ると、路線・区間名とともにATS-P形の使用開始時期が記入されており、なるほどこの事故を受けて新設された区間が多いのだと理解できる。ところが、福知山線を含めて導入されたATS-P形は拠点型のPといって、JR東日本やJR東海が導入したATS-P形と比べて保安度が低い。具体的には、絶対信号機である場内信号機と出発信号機とは確かにATS-P形で防護されるが、数の多い閉そく信号機は従来形、つまりこの事故を防ぐことのできなかったATS-Swが相変わらず守っているからだ。
 拠点型のPを導入した鉄道事業者はJR西日本しか存在しない。筆者が知る限りでは、京成電鉄、東京都交通局1号線浅草線、京浜急行電鉄、北総鉄道の各社で1号型ATSをより保安度の高いC-ATSに切り換えた2008年ごろ、まずは絶対信号機に対する防護をC-ATSに変え、その後閉そく信号機への防護を切り換えていった事例があるだけだ。もっとも、1号型ATSには停止信号と注意信号とに対する連続速度照査機能をもっていて、前者は15km/h、後者は45km/hを越えると前者は非常ブレーキ、後者は全ブレーキ(常用最大ブレーキ)が作動する。「目覚まし時計」と揶揄されるように、停止信号に近づいて警報音が鳴ったときに確認扱いのスイッチを押してしまえばその後は全く何もしない閉そく区間のATS-Swとでは保安度は比べものにならない。
 JR西日本とて拠点型のPの欠点は承知している。筆者の記憶では、「データで見るJR西日本」の確か2010年版くらいまではATS-P形の導入線区を閉そく信号機を含めた完全なATS-P形のものと拠点型のPとの2種類に分けて表示していた。しかし、筆者のような人間が常々拠点型のPを批判するため、ついに拠点型のPと銘打って掲載しなくなったのである。これは同社が拠点型のPのもつ保安度の低さを認識しているからにほかならない。
 拠点型のPは、複々線で列車の運転回数が極めて多く、しかも最高速度も130km/hと高速な東海道・山陽線にも導入されている。かたや、筆者在住の千葉県富津市を走るJR東日本の内房線は蘇我-安房鴨川間の全線で閉そく信号機を含めてすべてATS-P形だ。単線区間の君津-安房鴨川間はJR東日本が地元に対して第三セクター鉄道に転換したいと回答するほどの不採算区間であるにもかかわらずだ。
 JR西日本に聞くと、拠点型のPを採用した理由は初期費用とランニングコストの削減のためだという。筆者も同社の苦しい台所事情は承知している。だが、所詮は金で解決できる問題だ。ならば筆者は次のとおり、提言しよう。

・JR西日本の電車特定区間や大阪環状線内の普通運賃は初乗りが120円とJR旅客会社中、最も安い。初乗りを200円に値上げすべきだ。

・売上がJR旅客会社6社に分配される青春18きっぷはJR西日本にとって、たとえ1kmでも乗車されると事実上損失を生み出す。したがって、青春18きっぷを廃止するか、JR西日本は利用区間から除外すべきだ。

・地方交通線の整理に本格的に取り組む必要がある。特に2010年度の旅客輸送密度が66人の三江線や、全線で1832人ながら恐らくは数百人ほどと見込まれる備中神代-三次間などではJR西日本は鉄道事業への意欲を失ってしまった。バスへの転換や第三セクター化を早急に検討しなくてはならない。

以上である。

 2012年4月29日、関越自動車道における高速ツアーバス事故が発生し、7人が亡くなり、乗客38人が負傷するという事故が発生した。事故の根本的な原因は福知山線の列車脱線事故と何ら変わりがない。筆者は金など大嫌いだ。しかし、金で解決できるのならば支払うのはやぶさかではない。100年後の人類が、金を惜しんだために起きた事故を知ったとしたら、先人たちは何と愚かであったと呆れるに違いない。後世に恥ずかしくない世の中を残すことが、事故で亡くなられた方々へのせめてもの供養となるのではないだろうか。

  • 2013.04.25 Thursday
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